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「シビアな世界だからこそ、
 白鳥龍彦のような人間には希望を感じることが出来る。
 光を照らす存在」(綾野)
『新宿スワン』 綾野剛&山本又一朗プロデューサー インタビュー

鈴木大介著『最貧困女子』、中村敦彦著『日本の風俗嬢』、五十嵐健三の漫画『匿名の彼女たち』など、現代社会を照らし合わせながら、水商売、風俗に足を踏みいれた女性たちを追ったルポタージが昨今特におもしろい。かつて実録モノ『冷たい熱帯魚』を撮った園子温監督が、漫画家・和久井健の漫画を映画化した『新宿スワン』は、それらと並び語ることができる“ルポ的視点”も持っている。そこで今回は、主人公の新人スカウトマン・白鳥龍彦を演じた綾野剛、そしてこれまで『太陽を盗んだ男』『クローズZERO』など多くのアウトロー映画を世に放ってきた本作プロデューサー山本又一朗に話を訊いた。

――白鳥龍彦はスカウトマンとしてたくさんの女の子に声をかけ、キャバクラ、風俗などの仕事を紹介し、彼女たちの収入の一部が自分の手元に入ってきて、それで暮らしている。映画の中でも描かれているように、スカウトマンの中には女の子に手を出したり、あと薬物をススメたり、権力争いに溺れたり。決してクリーンではないですし、そういう生き方をしているスカウトマンの立場を、好ましく思わない人も多いと思います。

 

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綾野剛(以下、綾野):確かにその通りだと思います。女性たちの頑張りが、収入として自分に還元されますし。でも、彼らなりの息苦しさへの理解もできます。たとえば、自分がスカウトした女性が店の持ち金を持って行方不明になったとしたら、保証人としてそのスカウトが、かわりにずっとダメージを負うことになる。つまり、一蓮托生(運命をともにすること)なのです。実は非常にシビアで深刻な職業でもある。

 

――そのシビアさ、深刻さについて、もっとお伺いしたいです。

 

綾野:それはやはり女性に“求められている”という部分だと思います。この映画に登場する女性たちはみんな、ひとりでは乗り越えられない壁を持っている。それを、スカウトマンを通して、乗り越えようとしている。守ってもらうこともある。「自分は一人ではない」「表層的であっても誰かと繋がっていたい」という実感を得たいのかも知れません。そこに寄り添うのが、スカウトマン。白鳥龍彦では、世の中を変えることはできない。だけど、どんな綺麗事であっても本気でぶつかっている。シビアな世界だからこそ、白鳥龍彦のような人間には希望を感じることが出来る。光を照らす存在。彼のような存在の必要さは、スカウトの世界に限らない話ではないでしょうか。

 

――そして『新宿スワン』にとってもっとも大切なのが女性たちのエピソード。僕は偶然、この物語に通じるルポタージュをいろいろ読んでいたせいか、本作に登場する女性たちの様がとてもリアルに感じました。彼女たちの姿は、綾野さんにはどのように映りましたか。

 

綾野:非常に刹那的だと思いました。女性が生きていく手法として、いろんな仕事、可能性がある。その中でも、きわめて刹那的な印象です。心と身体が非常に密接していて、心の琴線に触れることは多いはず。だからこそ、長く続けるには相当な大変さがあるはず。特に水商売、風俗の場合、女性は男性の心を受け止める側。でも受け止める側というのは、常にいつでも壊れてしまいそうなもろさがある。『新宿スワン』の女性たちも強く立ち続けているように見えるけど、だからこその儚さがある。

 

――確かに現実でも、我々男性は、女性に受け止めてもらっていますよね。だから、好きなことをやっていられる。『新宿スワン』の男たちは、まさにそう。

 

綾野:そして僕たち男は、実は女性のそういう部分に関してはあまり語ってはいけない気がしました。それこそ、中には「風俗は良くない」と言う人もいるだろうけど、性は人々の精神的な支えとしても決して切り離せないもの。ただの欲求物として、とらえてはいけない。また『新宿スワン』にはその職業を選ばざるを得なかった人たちもいる。だから、一言で「闇」かと言えば、絶対にそう言ってはいけない。彼ら、彼女らは希望に導かれなきゃいけない。その人たちが、どういう幸せに向かうのか。『新宿スワン』を通して、僕らはこの社会についてもっと探求し、言及すべきだと思います。

 

――綾野剛さんは作品の世界についてかなり深く考察して、役に取り組んでいらっしゃる印象です。山本又一朗プロデューサーは、綾野さんの所属事務所の代表でもありますが、彼の強みというのは、山本さんから見てどういう部分でしょうか。

 

山本又一朗(以下、山本):やはり下積みがあること。それはうちの小栗旬にも言えることで、彼らには「演技者になれ」とずっと言ってきました。リアリティーをもって演技者として作品にとけこむ。そして、その役をやってお前がどれだけ魅力的になれるのか。「それが俳優として本当の仕事だ」と。ただただ上手に演技が出来たとしても、じゃあ「お前は何なの」となる。僕は、小栗にも綾野にも、演技者の芯となる部分を要求してきました。そんな中でも、小栗旬は類い稀なるスターとして頭角をあらわした。もちろん綾野剛にもスターとしての品格はある。ドラマ『カーネーション』、映画『クローズZERO』、さらには大河ドラマ『八重の桜』で松平容保まで、ジャンルを問わずやれる。そんな彼であっても、この『新宿スワン』の白鳥龍彦をやらせるのは、躊躇しましたよ。

 

――え、そうなんですか!?

 

山本:実は(白鳥龍彦役は)綾野ではなく別の役者を考えていた。でも、和久井健さんが描いた原作の白鳥龍彦はズバぬけていて、誰かに決めることができなかった。ある日、和久井健さんと映画化に向けてそんな話をしていたとき、偶然、撮影終わりの綾野から電話がかかってきて。「何をしてるんですか」「今、ちょっとお客さんと飯を食っている」「俺、仕事が終わったんで、腹が減ってるんですけど」「じゃあ来いよ」というやりとり。そこで和久井さんを紹介したら、綾野が「僕、『新宿スワン』読んでたんスよ」と言うんです。で、あいつは和久井さんと握手をしながら、俺の方をチラッと見て「いるじゃないですか、白鳥龍彦が」と!

 

――ハハハ(笑)。

 

山本:僕も「え、えー!」となってね。超意外(笑)。綾野剛が白鳥龍彦をやるなんて、頭をひっくり返しても考えつかなかった。僕も「どうしよう」と思った。そして後日、綾野に何気なく「飯でも食いに行こうか」という機会があって、そのとき「いや、カウンターバーでもいきましょうよ」と言われ。そして呑みながら、綾野が僕に「『新宿スワン』をやりたいんです」と。でもまあ、結局は白鳥龍彦をやれる俳優はそのときまで決められなかったから、「そうか」という感じで。つまり、あの役はきわめて消極的な理由で、「もう剛にやってもらうしかないんじゃないか」となったんです。

 

――映画の中で綾野剛さんが白鳥龍彦のキャラクターはあそこまで作りこんでいただけに、その経緯、理由はちょっと驚きました。

 

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山本:綾野剛は女性ファンが多いし、これからはラブロマンスの大作をやっていくようなタイプだと勝手に考えていたから。だからある意味、僕としては「綾野剛を白鳥龍彦役で使うことは、ダメなんじゃないか」という認識があった。剛が「やりたい」という白鳥龍彦のイメージに、僕たちが寄り添う形となり、『新宿スワン』ができあがった。「これはどうにもならない映画になるかもしれない」という恐怖にもおののきながら、ずっと撮っていた。あと、綾野のテンションが初日からすごくて、園子温監督も圧倒されるくらいで。僕は「この映画は終わったかもしれん…」と思ったよ(笑)。それでもあの高いテンション、ものすごいエネルギーが最後までずっと続いた。綾野剛という俳優が「やりすぎ感」を恐れずにやったんです。それがこの映画にパワーを生んだ。綾野にとってこの『新宿スワン』は非常に重要な映画になったと思う。この経験を生かしてもっともっと羽ばたいて欲しいね。

 

(取材・文:田辺ユウキ)




(2015年6月 3日更新)


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Movie Data


©2015「新宿スワン」製作委員会

『新宿スワン』

<PG12>
●TOHOシネマズ梅田ほかにて
 大ヒット上映中

出演:綾野剛/山田孝之
   沢尻エリカ/伊勢谷友介
製作:山本又一朗
脚本:鈴木おさむ/水島力也
監督:園子温

【公式サイト】
http://shinjuku-swan.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/167121/

★綾野剛は「人たらし」。兄貴分の伊勢谷友介が素顔を明かす。
http://cinema.pia.co.jp/news/167121/62906/