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「自分の小さな部屋からYouTubeに動画をアップロードすることで
 全世界への広がりを感じることがあって、そこを表現したかった」
『世界の終わりのいずこねこ』竹内道宏監督インタビュー

 アイドルとして活躍していた“いずこねこ”が主演を務めたファンタジー映画『世界の終わりのいずこねこ』が、4月11日(土)より第七藝術劇場、4月18日(土)より元町映画館、5月2日(土)より立誠シネマにて公開される。西暦2035年、隕石の飛来により終わりを迎えようとしている地球を舞台に、アイドルとしての活動を続ける少女の姿を描く。そこで、本作を手がけた竹内道宏監督にインタビューを行った。

――竹内さんはミュージシャンのライブ映像をYouTubeに公開していることでも知られていますが、映画としては今回で何作目になるんですか?

1作目がフェイクドキュメンタリーの『新しい戦争を始めよう』、2作目がライブ/セルフドキュメンタリーの『始めようといってもすでに始まってた』、それで今回の『世界の終わりのいずこねこ』が3作目ですね。

 

――いわゆる物語のある劇映画は今回が初めてとのことですが、どのような経緯でこの映画を撮ることになったんですか?

最初はSPOTTED PRODUCTIONSの直井(卓俊)さんという方が「アイドルのいずこねこで映画を撮りたい」と企画されて、漫画家の西島大介さんにプロットを書いてもらっていて、その後、おふたりに指名していただいた形になります。

 

――広島在住の西島さんとは以前から面識があったんですか?

『新しい戦争を始めよう』が広島で上映されたときにお会いしました。《MOOSIC LAB》というイベントの中の1作として上映されたんですが、西島さんはそこで審査員をされていて、『新しい戦争を始めよう』が西島大介賞という超個人賞を受賞したんです(笑)。『新しい戦争を始めよう』をすごく気に入ってくださって。今回、声をかけてくださったのも、それがきっかけですね。

 

――もともと西島さんがプロットを書いていたとのことですが、脚本には西島さんと竹内さんのおふたりがクレジットされています。共同脚本というのはどのように進めていったんですか?

西島さんはSF的なファンタジーの部分、現代にリンクしたようなちょっと暗い日常や現実っぽいところは僕が考えて、意見のやりとりを重ねたという感じです。

 

――最初にプロットを読んだ時はどんな印象でしたか?

企画をいただいてプロットを読んだ時点で、これはちょっとひねくれたSFになるなとは思いました。漫画なら面白いけど映画に撮るのは難しそうだなと正直思ったんです。しかも劇映画は初めてだし。西島さんの漫画は以前から何冊か読んでいて、漫画だから描ける世界観もあるし、絵柄の雰囲気と世界観が合うから良いんであって、あれをそのまま映画化は出来ないですしね。

 

――具体的に言えば、映画に登場する木星人とかの要素は西島さん、日常やインターネット配信とかの要素は竹内さんということですね。

そうそう。インターネットの要素は完全に僕ですね。自分の得意分野を入れたかったんです(笑)。

 

――それで、ファンタジーを自分の生きてる世界に引き寄せよせたということですね。

SF映画をちゃかしているわけではないけど、今、現実世界がSFっぽくなってるじゃないですか。映画の中で、2011年にパンデミックが起こったと描いていますが、2011年って実際に震災とか原発とか、映画以上の衝撃的な映像が出回って、こんな恐ろしい映像、映画で作ったり出来ないなとか思ったんですよね。

 

――西島さんと竹内さんの世界観の混ざり具合と色の出方が絶妙です。

現実に起きている目に見えない恐怖って、普通の病気や寿命もそうですけど、そういう目に見えない恐怖や恐ろしさ、精神的な重さとかそういったものをうっすら感じつつ、あんまり真正面からSFを描くのではなく、無駄な要素も入れたいなと思ったんですよね。小明さん演じる保健室の先生とか話にはあまり関係ないですしね(笑)。

 

――小明さんはいくつか今までも映画やテレビドラマに出ておられますが、演技経験のない人がたくさん出ていてキャスティングもかなり異色ですよね。

脚本を書いた西島さんが、自ら世界観を語る教師を演じたら面白いんじゃないかとまず思いついて。それ以来教師にしか見えなくなってきたので(笑)、演技については何も考えずに教師役で出てもらいました。物語を作った人が映画の中で語っているというところが面白いなと思っています(笑)。

 

――ほかに美少女もたくさん出てきますよね。

アイドルとモデルの方にたくさん出ていただいたんですが、どちらも可愛くて綺麗で一見近い存在のように思えるけど実は全然違う。アイドルって今は女性にも人気ありますけど、基本的には男性が好きになる対象で、モデルのほうは女性が惹かれる対象という気がしてて。そこの違いに以前から興味があって、アイドルとモデルの対比がほしいと思っていたんです。

 

――主人公の茉里(いずこねこ)さんの演技は自然に感じました。

アイドルって職業柄本番に強いというか表現力があるんですよね。台詞を覚えるのもすごく早いし、NGもあまりありませんでした。モデルの方々や西島さんは台詞を覚えるのが大変そうだったし、演出の力が及ばず「棒読み」という指摘も少なからず受けますが(笑)、そこも含めてこのキャスティングが出来たのは面白かったかなと思っています。

 

――竹内さん自身、アイドルの面白味みたいなものは感じていますか?

10代のころからナンバーガールとかバンドのライブが好きで、ずっとバンドの映像を撮ってきてるけど、今のバンドを見に来ているお客さんのノリと、アイドルを見に来ているお客さんのノリが全然違うんですよ。今アイドルを見に来ているお客さんって僕が10代のころ見ていたバンドのお客さんに近い気がしています。とにかく声が大きいし、あと好きなバンド、アイドルにお金を使うことを惜しまない(笑)。

 

――あ、それ大事なことですね。

ただ、僕はアイドルオタクとは違うと思います。今、BABYMETALがめちゃくちゃ好きなんですけど、それはバンド好きの延長線上にあって、僕自身まだまだバンド寄りの人間だと思います。アイドルのライブに行っても全力でコールとか出来ない自分がまだいるんです(笑)。「応援する」感覚にノレないというか。バンドを見に来るお客さんって「応援する」っていうノリではないですもんね。僕の感覚としては、カッコイイものを見て鳥肌が立つような感覚を味わいたいっていう表現が近いかも。女の子は大好きですけど(笑)。

 

――映画の中で印象的だったのが、ラストのいずこねこが歌う場面。そこで急に映画の雰囲気や質感が変わって生々しくなりますよね?

そう感じてくれて嬉しいです! まさに生々しさを撮りたかったから。あの場面だけ僕がカメラを持って、手持ちで撮ってるんです。それ以外の場面はほとんどFIXで整然と撮っている。ファンタジーの世界が、自分たちの生きている現実であることを表現したくて手持ちカメラで撮りました。そして、配信のコメントがいっぱい映る。生々しい映像がスクリーンに映し出されて、そこにコメントがたくさん流れるというギャップ。コメントも自分で入れたんですけど、そのコメントにも生々しさは意識しました。

 

――今までもずっとLIVE感を大事にしてきた感覚が、あの場面で出てるなと感じました。

今までの自分の表現って、勢いと生々しさしかなかったので、自分の強みをライブシーンで発揮したいなと思って(笑)。

 

――ご自身も動画配信をされたことはあるんですか?

自分で配信したことはなくて、神聖かまってちゃんがやってるのを横で見ていたくらいなんですけど、自分の小さな部屋からYouTubeにアップロードすることはずっと継続してやってて、それが全世界に広がっているという感覚をここ5、6年感じることがあったので、そこを表現したかったというのもありますね。

 

――竹内さんにとって、映画ってどんな存在ですか?

もともと映画は好きだったけど、映画って僕らが生まれたときから存在していて映画館で観るのも当たり前だし、特別なこととは思っていなかったんですよね。だけど、撮る側にまわって素人目線な意見で申し訳ないですけど、実際に足を運んで、暗いところで知らない人と一緒に映像を観るって、改めてすごいことだなと感じています。

 

――インターネットと映画の大きな違いですよね。

映画館のスクリーンとパソコンの画面では大きさが違うとかそういうのもあるけど、YouTubeというか僕が流してるライブ映像とかって、結局は1対1。たくさんお客さんが来てくれる光景を見ていて、たくさんの人たちでひとつの映像を見る「映画」って本当にすごいなと感じています。

 

――それが映画の良いところではあるけど、それでも竹内さんはYouTubeに映像をアップロードすることにも大きな魅力を感じているんですよね。

映画だと上映にこぎつけるまでいろいろな人が関わってお金もかかるし時間もかかる。僕、撮ったものをすぐに出したいんです。撮った翌日にはアップロードしたい。出来るだけ鮮度を保ちたい。その情熱とかこだわりみたいなものは強いと思います。時間が経つと、自分が撮った映像への興味が自分自身薄れるんです。そういうリアルタイム性みたいなものを大事にしていきたいですね。

 

――では、この映画は撮り終えてから数ヶ月経ってるから自分的に鮮度はない?

去年の10月に完成した映画なので、自分としての鮮度はないです。でも、お客さんは初めてだから、YouTubeとは違う感覚で面白いですね。映画はそれが当たり前なんですけどね(笑)。

 

――作品を作ることは自分が死んでもずっと永遠に残っていくってのも面白いですよね。

とくに、いずこねこはアイドル「いずこねこ」としての活動が終わるから、そういう意味でも残せるものが出来てよかったなと思います。別にインターネット至上主義というわけではないけど、自分の家が火事になったり強盗にあったりしてもインターネット上に預けていたら消えないんですよね。誰かが消してもほかの誰かが保存してることもあるし。

 

――何回消されても誰かがアップロードしてくれることがある、という。

19歳ぐらいのときに録画してたテレビ番組のバンドのライブ映像を編集してYouTubeにアップロードしたら20万回数以上の再生回数があって。いろいろ版権とかひっかかって映像は削除されて、アカウントも停止されたけど、誰かが別のタイトルで何度もアップロードしてくれていたことがあって。その後、東京に出て映像の仕事しだしたら、出会った人たちに「その映像見てました!」と言われることが結構あるんですよ(笑)。

 

――今まで個人的にやっていたことが、どんどんいろんな人に届いていっていますね。

今まで映画を崇高なものと捕らえすぎていて、僕には劇映画なんて撮れないとどこかで思ってたけど、こうやって上映する機会をもらって、自分の映画がたくさんの人に観てもらえるのは本当に嬉しいです。動画を再生されることと同じくらい嬉しい(笑)。現在進行形でやってることでもあるから、まだ動画寄りの人間だけど、映画も機会があれば今後も出来ればと思います。

 

(聞き手:山口良太)




(2015年4月10日更新)


Check
竹内道宏 Profile(公式より)
たけうち・みちひろ●1983年9月12日兵庫県生まれ。フリーのライター、イラストレーター、ライブ撮影者として神聖かまってちゃんのライブをYouTubeに公開していることでも知られ、2012年には《MOOSIC LAB 2012》で初の映画監督、主演を務め準グランプリに輝く。過去に撮影したアーティストは、うみのて、チッツ、toddle、太平洋不知火楽団、川本真琴、知久寿焼、前野健太、シャムキャッツ、cero、スカート、バンドじゃないもん!、透明雑誌(台湾)、ガール

Movie Data


『世界の終わりのいずこねこ』

●4月11日(土)より第七藝術劇場
 4月18日(土)より元町映画館
 5月2日(土)より立誠シネマ
 にて公開

出演:茉里
   西島大介 蒼波純 
   緑川百々子 永井亜子
   小明 宍戸留美 
   蝦名恵 いまおかしんじ 他

【公式サイト】
http://we-izukoneko.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/165857/


Event Data

注目の新人女優、蒼波純も来場!
<さよなら、世界の男ども!
おんなのこ映画トーク>開催決定!

『おんなのこきらい』『ワンダフルワールドエンド』『世界の終わりのいずこねこ』の京阪神公開を記念したトークイベント<さよなら、世界の男ども!おんなのこ映画トーク>開催決定!

『おんなのこきらい』トーク
4月17日(金) 第七藝術劇場
4月18日(土) 元町映画館
4月19日(日) 立誠シネマ

『ワンダフルワールドエンド』トーク
4月17日(金) 立誠シネマ
4月18日(土) 元町映画館

『世界の終わりのいずこねこ』トーク
4月17日(金) 第七藝術劇場
4月18日(土) 元町映画館

※蒼波純の来場は、4月18日(土)元町映画館のみ。その他のトーク登壇者に関しては各劇場のホームページをご確認ください。