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村は全てフィルム撮影、
都会のシーンはわざとデジタルカメラを使用
その質感の違いにも注目して!
『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』
矢口史靖監督インタビュー

 『まほろ駅前多田便利軒』や『舟を編む』など映画化が続く直木賞作家・三浦しをんのベストセラー小説『神去なあなあ日常』を、『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』『ハッピーフライト』『ロボジー』と数々のヒット作を世に送り出してきた矢口史靖監督が映画化した青春エンタテインメント『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』(5月10日(土)より、TOHOシネマズ梅田ほかにて公開)。今最も忙しい俳優のひとりである染谷将太が、今までに見せたことのない妙演を見せ、海猿から山猿へとなり活躍する伊藤英明ら全キャストの生き生きとした表情にも期待してほしい。林業シーンではスタントなし。彼らが体現する人と自然のふれあいにも注目だ。そこで、矢口史靖監督にインタビューを行った。

――原作もの初挑戦ということですが、原作からここだけは活かそうと思った部分はありましたか?
今まではずっとオリジナルでしたが、この原作小説を読んで「林業を豊かに見せる」「お祭をちゃんと見せる」このふたつの目玉をどれだけ迫力を持たせて見せられるかが課題だなと思いました。
 
――今までのシナリオつくりと違いはありましたか?
今回、三重県を行ったり来たりしながら9ヶ月ほど取材をしまして、その間に僕自身が体験した林業の仕事の現場や林業家さんのお話、出来事をシナリオに織り交ぜています。取材で得たものをどんどん取り込んで、その後、シェイプしてシナリオの形にしていくという。気がついたらいつも書いてるシナリオの書き方とあまり変わらなかったですね。ただ、「よしこれでいけるぞ!」となったシナリオを原作者の方に読んでもらわないといけない。これは初体験でした。
 
――出来上がったシナリオを読んだ原作者・三浦しをんさんの反応はいかがでした?
僕が書いたシナリオは原作とかなり違うものだったので「もしかしたらNGが出るかもしれない」と覚悟はしていたんですが、「何も変えなくていい。シナリオのまま撮ってください」と言っていただき、本当に良かったです。小説と映画の構造ってメディアが違うので、単に圧縮すれば済む話ではないんですよね。でも、三浦さんは自分が書いたものを映画化された体験がおありだし、そこは理解されていたようです。
 
――このシナリオが本当に面白いからでもあると思います。
「たくさん笑えてたくさん泣けて、気持ちのいい台本」とおっしゃっていただきました。
 
――原作とシナリオの大きな違いは?
最初の主人公が村に行く理由からもうほとんど違うので(笑)。小説の中では、先生と母親にパンフレットを渡されて「林業研修に行きなさい」とすすめられて行くんです。いい加減な気持ちで村にひとりで行くというところは変わらないんですけどね。

 

染谷くんは、睫毛がとても長いので
重いのか、いつのまにかとろ~んとした目になってきちゃう(笑)

――そう。この主人公はいい加減でやる気がなくてチャラついている。それなのに嫌いにはなれない。そんな主人公のキャラクター像はどのように生まれたんでしょうか?
染谷くんをキャスティングした時点で嫌われないように出来る自信はありました。彼自身、本当に素直な性格で自然とこの役にはまっていったんだと思います。何をどうしたということではなく表情や仕草、所作なんでしょうね。ただ、彼には「この主人公はちゃらんぽらんでいい加減で考え方も甘っちょろいけど、友達は多くて、クラスのみんなと遊べる子。だからこそ受験に勝った子たちと負けた子たちの差が悲しくなるんだよ」とは言いました。受験に失敗した主人公に友達はみんな「大丈夫だよ」と励ますけど、その子たちは合格している。友達のまま人生の差がついてしまっていることが残酷に見える。そういうことを伝えました。
 
――今までの染谷くんの印象がガラッと変わる作品になりました。
オーディションをした時点で彼の過去作を観ていなかったので、真っ白な状態で彼と会ったんです。彼は自分で思い込んだ芝居ではなく、とてもナチュラルでニュートラルなお芝居をされます。とにかく笑顔がチャーミングですし、本当に今の都会っ子なんです。今回そこを見込んで主演をしてもらって、うまくはまった。出来上がってから染谷くんの過去作品を観たんですが、死んだり、殺されたり(笑)、本当に暗くて驚きました。今回、先入観がなかったのが良かったんでしょうね。
 
――染谷くんと言えばちょっと眠そうな目が特徴でもあると思うのですが、本作ではだんだん目がイキイキしていくところが観れます。
気づきましたか! 実は映画の前半と後半では目の開き方を変えるように具体的な指示をしました。「今日のシーンは30パーセント」「今日は70パーセント」と。睫毛がとても長いので重いのか、いつのまにかとろ~んとした目になってきちゃうんです(笑)。眠そうな目だと意思が弱そうに見えるんですよね。
 
――だんだん林業に目覚めていくんですね!
まさに開眼していくということです(笑)!
 
 

伊藤英明、海猿から山猿へ――
「深く潜るのはいいけど高いのは大変だね」

――林業シーンでは吹替なしと伺いましたが、木の上に立つシーンもありますよね。
染谷くんはチェーンソーもすぐ出来るようになったし、高いところも軽々と登るんですけど、伊藤英明さんが実は高いところが駄目で。
 
――え、意外ですね(笑)!
僕も高所恐怖症なんですけど、染谷くんと先に登っていたので、伊藤さんもしょうがなく登ってくれました…。標高も高いところでしたし、その上、木の上に立つというのは本当に怖いです。
 
――あのシーン、木にしがみついているわけではなく、余裕で立っていらっしゃいますよね?
あれは、僕の思いつきで。そうだったらカッコイイなと思って「伊藤さん、片手ぶら~んとしてください」って言ったんです。ビクついてるような感じが一切ないのは、役者根性なんでしょうね。「深く潜るのはいいけど高いのは大変だね」と現場で言ってました。
 
――伊藤さんは走っているトラックに飛び乗ったり、とってもワイルド。まさに海猿から山猿になったような印象でした。
本当に身体能力がすごい。でも、それ以上に演技力も驚きました。こちらが求めていることをものすごく注意深く聞いてくれて、迷わず的確に返してくるんです。センス抜群! 肉体の迫力で映画を引っ張れて、しかもお芝居も出来る人はなかなかいない。今回、伊藤さんに出ていただいて本当に感激しました。
 
――伊藤さんは過去作品も観ていたんですか?
今までの作品を観ていて、「伊藤さんが演じてくれたらいいな」と思い、まず会いに行ったんです。お忙しい方なのでドラマの撮影中にお邪魔して。そのときの伊藤さんはパリッとスーツを着こなしていて、背丈もあるし、服を着ていても筋骨隆々なのが分かりました。それで、その日寒かったので僕がブルブル震えているのを見て「寒いっすか」ってカイロをくれたんです。そういう気さくな優しさなんかも見ているうちに、彼にトラックに走ってきて飛び乗るとか手鼻をかませたいとか、いろいろさせたいなと思い出して(笑)。そういったワクワクさせる魅力があり、直接会って一目惚れしたみたいな感じで今回お願いしました。
 
――伊藤さんに本当にぴったりな役で、ご本人も楽しんでいらっしゃったように思いました。
そうなんです。実は自分でこの映画のチケットの50枚束をいくつか買って持っていて、先日「はい!」って染谷くんや僕にまで1枚ずつ配っていて(笑)。よっぽどいろんな人に見せたいのか興奮してました(笑)。あんなことされたのは初めてでしたね。
 
――では、長澤まさみさんのキャスティングは?
長澤さんとは以前から何度かお会いしたことが会ったんですが、かなりさっぱりしたサバサバした人なんです。それでいつかそのキャラクターを活かした役で僕の映画に出てほしいなと思っていて。今回書いた彼女の役は、一見憧れの美女だけど会ってみたら甘い考えで近づけるような女性ではなく、女性らしさをほとんど見せない。
 
――脚の美しさもジャージで隠れていますが、彼女の今までにない魅力が出ていますね。それで言うと、染谷くんの作業着がどんどん彼に馴染んでいくのも面白かったです。
分かりましたか! 研修所に入ったばかりの作業着はわざと大き目のサイズを着ていて、後半にはぴったりのを着てもらっています。そういうことでだんだん似合ってくるように見せました。
 
――そうだったんですか! また、村のおばあちゃんたちや子どもたちも自然で良かった。
おばあちゃんは50人くらい、子どもは80人くらいのオーディションを行いました。プロと言えばプロですが、顔が売れているとか、なんでもうまくこなせるかではなく、言うことは聞いてくれないけどこんな人、こんな子いるよねと思えるようなおばあちゃんや子どもを選ぶべきだという方針があったので、結果的に実際にそこに住んでいるような感じが出せたんだと思います。みんな段取りも全然分かっていないし、台詞も慣れていないのでフレームの外で喋ったりとか。まったく画面に入ってないとかしょっちゅうで現場は大変でした。偶然カメラに入ってそこで台詞を言ってもらえるとOKが出るという…。なので何10テイクもまわしました。その分苦労しましたが、村が魅力的に見えるように撮れたと思います。

 

今回、あけっぴろげなエロティシズムを描きました。

――今までの矢口監督映画とここが違う! というところはありますか?
雰囲気を変えたいという気持ちがありました。主人公が向かう神去(かむさり)村は、土や草、動物の臭いなど、生命力にあふれている。それで今回、生命力のひとつとして、あけっぴろげなエロティシズムを描きました。オープン過ぎて、主人公が面食らってしまうような。随所にプチエロスを放り込みました。ここですね(笑)。
 
――ラストのお祭は実際にあるものですか?
いえ。この映画の場合、生命力を前面に出していきたかったので、それを最後の祭でお客さんも笑ってしまうくらい(笑)大爆発させる。いかにもありそうな感じに見せるために祭シーンはドキュメンタリーっぽく手持ちカメラで撮影しています。それと今回、村の駅についてから村を離れるまで全てフィルムで撮影して、都会のシーンだけわざとデジタルカメラを使っています。
 
――フィルムだから山の神々(こうごう)しさが映っているんですね。
それと、湿った感じ、ざらざらした感じ。汗をかいてるのか乾いているのか。そういう質感がフィルムだと出て、デジタルで撮ると硬い、やわらかい、フワフワしてる、ざらざらしてるなんかの質感が一種類に統一されてしまうんです。とは言え、フィルムで今撮影するのはかなり大変で、「林業というのは100年、200年単位で自分が死んだ後も続くものを作ろうというもの。なので100年、200年残るフィルムで撮りたい」と。この言葉が周りを説得するのにききました(笑)。
 

woodjob_yaguchi3.jpg

――映画にも出てくる言葉ですね。これは実際、林業家の方から聞いた言葉なんですか?
そうなんです。そのまま映画の中で親方の台詞にしました。林業家の「自分らが切り倒している木は自分の祖父や曽祖父が植えた木で、今植えた木は僕らが死んだ後で孫やひ孫が切って生活の糧にしていく。結果が見えないことを引き継いで渡していく。こういう仕事をすごいと思わないかい?」という言葉にとても感銘を受けて。
 
――ストーリーはとてもシンプルですが、映画の中身は盛りだくさんに感じました。
都会の男の子が村でいろんな経験をする。構造上はとてもシンプルで伝わりやすいと思います。なので、観客は主人公と同じ視点で体験してほしいですね。主人公は最後に村での体験研修を終えて東京に帰ります。そこで「(家の)ドアを開けるな」「戻れ!」と思ってくれたらこの映画は成功ですね。



(2014年5月10日更新)


Check
矢口史靖 Profile (公式より)
やぐち・しのぶ●1967年神奈川県生まれ。1990年ぴあフィルムフェスティバルで8ミリ長編『雨女』がグランプリを受賞。PFFスカラシップを獲得し16ミリ長編『裸足のピクニック』(93)で劇場監督デビュー。以降『ひみつの花園』(97)『アドレナリンドライブ』(99)で高い評価を得、2001年には“男子のシンクロ”というユニークな題材で話題を呼んだ『ウォーターボーイズ』が大ヒットを記録。その後『スウィングガールズ』(04/第28回日本アカデミー賞で最優秀脚本賞・最優秀音楽賞・最優秀録音賞・最優秀編集賞・話題賞等の5部門を受賞)、2008年『ハッピーフライト』、2012年『ロボジー』と全ての作品でヒットを飛ばす。芸術性とエンタテインメント性を併せ持つ、文字通り“日本映画界の至宝”。

Movie Data





© 2014「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」製作委員会

『WOOD JOB!(ウッジョブ)
 ~神去なあなあ日常~』

●5月10日(土)より、
 TOHOシネマズ梅田ほかにて公開

出演:染谷将太 長澤まさみ 伊藤英明
   優香 西田尚美 マキタスポーツ 
   有福正志 近藤芳正 光石 研 柄本 明
監督・脚本:矢口史靖
原作:「神去なあなあ日常」三浦しをん
    (徳間書店刊)
音楽:野村卓史
主題歌:「Happiest Fool」マイア・ヒラサワ
    (ビクターエンタテインメント)

【公式サイト】
http://www.woodjob.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/162679/