キープ・オン・童貞！
『中学生円山』宮藤官九郎＆平岡拓真インタビュー （2/2）

――円山克也って、モテるかどうかってことよりも、“あるエッチな目的”を達成するためだけに動いている。普通、この手の主人公って映画とか音楽にカタルシスを持っていくものですが、『中学生円山』はそうじゃない。そこが新鮮なんです。エンケンさん（遠藤賢司）も出演していて、音楽は向井秀徳さん（ZAZEN BOYS）が手がけているし、一見サブカルチャー系映画に思えるけどそうじゃない。

宮藤：映画や音楽で救われちゃうことが、この物語には良くないと感じていました。自分自身、青春時代は音楽、映画、お笑いに救われたので、円山克也には逆にそれを背負わせず、それらがなかったらどういう青春を送るのかな、どうするんだろうなって思った。普通は、カルチャー的なものや女の子にカタルシスが向くけど、どっちにもいけないというのがいいですよね。あと、技術的な面でも、監督した前2作に比べて音の数を半分くらいにするなど、必要な音だけを絞って使っていきました。円山克也が子連れ狼・下井（草なぎ剛）を尾行するくだりの音のイメージは、石井聰亙（現・石井岳龍）監督作『逆噴射家族』だったり、そういうアイデアは入れています。

――映画や音楽に救われない…。それが現実の青春ですよね。

宮藤：向井さんと対談で話していたのですが、「バンドをやっていたフリをしていた」とおっしゃっていました（笑）。お兄さんの楽器のケースだけを持ってその辺をうろうろして、バンドをやっている体（てい）から入ったらしいです。でも確かに自分もそうだったし、全然理解できないようなレコードや良いと思えない曲を聴いて、そういう自分に浸る。でも背伸びでしかない。

――平岡さんは悶々とした気持ちを、どういうことで楽にするんですか。

平岡：僕は発散できるものがないですね。全然、見つからない。

宮藤：仕事じゃないの？　だってこの映画に深く関わらなかったら、「自分は妄想ばかりして、変だ」って思っていたわけだし。それにしても僕は、平岡君のように中学生で俳優の仕事はできないなあ。きっとストレスがたまる。まわりの嫉妬もあるだろうし。耐えられないな。

――確かに、平岡さんは同じ歳の男子からは嫉妬されてもおかしくない。だって映画の主演ですから。

宮藤：まあ、でもこの映画は自慢にならないよ（笑）。

平岡：そんなことないです。今回の撮影はすごく勉強になりましたから。劇中では、女の子の前だろうが関係なく、何度も服を脱いで演技をするなど、いろんな面で恥ずかしさがありました。でもそうやって恥ずかしがっていたら、スタッフのみなさんに怒られたんです。宮藤監督からも「恥ずかしがっていることが、恥ずかしい！」と厳しく注意されました。そこで吹っ切れることができました。

宮藤：ただ、もし自分が「やれ」と言われても、あまりやりたくはない役ですね…。

――ハハハ（笑）。それにしてもこの『中学生円山』は、『モテキ』や『ソーシャルネットワーク』の対として語りたくなる映画です。『モテキ』『ソーシャルネットワーク』は童貞性を失ってから主人公が強くなる。要は、童貞のままだと物語の主人公にはならない、ドラマを動かせない…となっている。だけど『中学生円山』は“キープ・オン・童貞”で終わっていくところがすばらしい。夢を与える！

宮藤：円山克也ってきっと、この先3年くらいも童貞だと思う。それって、「童貞を失ったらなにか大事なものがなくなっちゃうんじゃないか」と考えていた僕自身の過去を引き継いでいるから。モテないからそう暗示をかけていたのかも知れないし、そんな風に思っていたからモテなかったのかも知れない。でも、最終的に一通り経験しても別に何も変わらなかった。つまり、初体験する／しないに関して特別な意味を求めていなかったんです。だからこそ、劇中で言っているように「妄想することを信じる」のが大事。「現実はこうなんだ」とわざわざ知りにいくのは生きていて楽しくない。現実なんて大しておもしろくない。円山克也は、ある目的のために想像をふくらませてがんばる。バカバカしく映るけど、僕はカッコいいと思う。映画を観て、そこに気づいて欲しいです。
 

（取材・文：田辺ユウキ）

（2013年5月17日更新）